みなさんは、もしかしたら普段こんなことをお感じになっていませんか?
□遺言書は、たくさん財産を持っている人が考えること。
□遺言書といえば、テレビドラマに出てくるような自筆で書いてある遺言書だけ。
□遺言を残すには、相続人に確認をしておかないといけないのでは。
□遺言書には財産のことしか書けない。
□遺言書は一度作ったら変更できない。
実は、そのようなことは全くありません。遺言書には自筆で書くもの以外にも種類がありますし、
決して多くの財産がある人だけが残すものでもありません。財産以外のことも記載できますし、
遺言とは一方的な意思表示で行うもので、相手の了解を得て契約するものでもありません。
また、遺言は撤回するのも自由です。
そんなふとした日常的に思っていることをご相談していただいても構いません。
どんな些細なことでも構いませんので、どうぞ、お気軽にご相談ください。
1 そもそも遺言はなぜ必要?
遺産分割協議のページにもあるように、ある方が亡くなった場合、その死亡の事実をもって
相続人全員が
共同相続をします。
戦前はいわゆる「
家督制度」がありました。だから長男が家を全部継いで、その代わりに家族
を守っていく、そのような制度でした。
しかし、戦後は家督制度は廃止され、いわゆる今の「
平等な相続」となったのです。
ところが法律上の相続分は平等に権利があるのかもしれませんが、実態はどうでしょうか。
必ずしも、法律どおりの財産の分け方だけが、残された家族にとって良いとは限りません。
例えば、長男であれば両親の面倒を看るとか、そのような生活実態はいまだにあるのではない
でしょうか。親との同居など、生前の生活状況で抱える問題も数多くあるはずです。そのような
なかで、親の死後、他の兄弟姉妹等と平等な相続分で良いのか、という問題があります。
また、同じ子どもでも、病気がちな子に財産を多く残してやりたい、そのような親の想いもある
のではないでしょうか。
このような場面で遺産分割協議が紛争を起こさずに、穏やかに協議が成立すれば問題はないかもしれ
ません。しかし、遺産分割が絡むとどうしてももめやすい事が多いものです。
そのようなときに活躍するのが、遺言書の存在です。
本来、亡くなった方の財産は、その亡くなった方のものです。それを自分の死後どのように家族に配分したいかは、自由に決めてよいはずです。
だからこそ、遺言書を活用して、
残された家族ができるだけ紛争にならないように、穏やかな相続手続きが負担なくできるようにしてあげること、それが遺言書の果たす役割だと考えます。
誤解を恐れずに言えば、ある意味、長年において連れ添った家族を、長年努力して築いた財産でもめ
ないようにすることは、
年長者の大切な責務とも言えるのではないでしょうか。
2 遺言とはどういうもの?
最初にお話したように、遺言とは本人の一方的な意思表示で成立するものです。
遺言と似て非なるものに、「
死因贈与」というものがあります。
これは「死因贈与
契約」というものです。つまり、契約なのですから、お互いが合意の上
意思の合致のもと契約をかわすのです。
しかし、遺言は違います。本人の
一方的な単独行為であるので、それを受けるかどうかは
また受け手の問題です。つまり相続人なら相続放棄をすることもできます。相続人でない方への
遺贈についても、放棄できる規定があります。
また、例えば、いわゆる死後認知として、遺言書で認知をすることもできます。
さらには「未成年後見人」の指定など、遺言でしかできないこともあります。
このように遺言書は財産だけでなく、いろんなことを記載することもできるものです。
3 遺言が必要なときとは?
例えば、
◆
遺言者が法定相続分と異なる配分をしたいとき。
◆
遺産の種類や数が多いとき。
◆
推定相続人(ある方が亡くなった場合に相続できる順位にいる人)が配偶者と兄弟姉妹のとき。
このようなケースで相続が発生したときに、配偶者は義理の兄弟姉妹や場合によっては甥や姪
を巻き込んでの遺産分割となり、困難が予想されます。
◆
自営業の場合
農業や家業を営んでいる場合、相続によって資産が分散しては経営が成り立たなくなる恐れが
あります。そのために遺言を活用することは有効です。ただし、他の相続人への「
遺留分」という
権利に配慮する必要があります。
◆
推定相続人以外へ遺産の配分をしたいとき。
この場合は遺言がなければ、現法律上は不可能です。
例えば、
①長男のお嫁さん
②内縁の配偶者
③看病してくれた人や団体
④団体への寄付
◆
その他、遺言があった方が相続が円満に行われると思われる場合
例えば、
①一人暮らしの未婚の方
②先妻との間に子があり、後妻がいる方
③愛人との間に子がいる方
4 遺言方式の種類とは?
(1)自筆証書遺言
遺言者が、その
全文、日付及び氏名を自分で書き、押印します。誰にも知られずに作成する
ことができるというメリットはあります。しかし、その反面、遺言者本人が一人だけで作成す
ることから、法律にかなった誤りのない文章を作成することはなかなか困難です。
これは、遺言書の「
真意の確保」をするために厳しい「
遺言の要式性」が要求されるためで
す。
また、誰にも知られずに作成できるがゆえに、本当にその方がその遺言を書いたのかという
真偽をめぐって裁判になりやすいというデメリットがあります。
(2)秘密証書遺言
遺言者が、署名・押印した遺言書を
封書(証書に用いた印章でもって封印する)にして
「
公証役場」というところで、「
公証人」及び
証人2名以上へ提出します。
この方式も、自筆証書遺言と同様に遺言者本人一人で作成するため、内容を秘密にでき
ます。公証役場では、遺言書の保管は行いませんが、遺言書を作成した事実については公
証役場に記録が残ります。
しかし、やはり一人で作成するので、正確性に欠ける場合や記載漏れも考えられます。
なお、署名以外は自筆でなくてもよいとされていますが、自筆で書ける人は全文も自筆で
書いておいた方がよいでしょう。
(3)公正証書遺言
遺言者が、
二人以上の証人の立ち合いを付けて、同じく公証役場の
公証人に遺言の内容
を口頭で伝え、公証人がこれを筆記し、その内容を遺言者本人に読み聞かせ、筆記の正確
なことを承認したうえで、本人が署名押印します。そして、最後に、公証人が法定の方式
で作成したことを付記して署名押印します。
ただし、実務上は、事前に遺言の内容について必要なメモや資料を提出し、それをもとに
公証人が作成するため、遺言内容を本人が口頭で伝えることは省略される場合があります。
遺言書は通常、
原本、正本、謄本の合計3通が作成されます。
遺言執行者が指定されている
場合は、正本は遺言執行者が執行のために保管し、謄本を本人が保管することが多いでしょう。
また、
原本は公証役場に保管されます。したがって、
原本の変造の恐れがなく、最も安全に保
管される遺言といえるでしょう。
5 公正証書遺言のメリット
(1)安全な保管
上記のとおり、公証役場にて遺言書原本が保管がされるため、遺言書の
紛失・偽造・
変造のおそれがありません。法律上は20年間の保存期間が規定されていますが、公証人
が遺言者の生死を確認できない場合が多いため、遺言者が100歳になるまで保管すると
いうのが一般的なようです。
(2)検認手続きが不要
公正証書遺言以外の、自筆証書遺言や秘密証書遺言は、「
検認」という手続きを家庭
裁判所へ申し立てる必要があります。検認は遺言書の効力を確定するものではありません。
遺言書の形式、態様など遺言の方式に関する事情を調査して、遺言書そのものの状態を確保
するための手続きです。
また、検認の申し立てには、申立人、遺言者、相続人全員、受遺者全員の戸籍謄本等が
添付書類として必要です。
なお、封印のある遺言書については、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立ち
合いがないければ開封することができないとされています。違反者には5万円以下の過料
の制裁があります。
公正証書遺言の場合は、上記のような検認手続きが不要です。これは
遺言書原本が
公証役場に保管されることや、
公正証書作成に公証人法による厳格な職務規程のもと、
公証人が関与しているため、遺言書そのものを検証する必要がないと考えられている
ためです。